17.0 ネットワークの基礎

Linuxには、あらゆるタイプのネットワークストラクチャに統合するために必要なネットワークツールと機能が用意されています。ここでは、一般に使用されるLinuxプロトコルであるTCP/IPについて説明します。 このプロトコルが持つさまざまなサービスや特別な機能について述べます。ネットワークカード、モデム、その他のデバイスを使用したネットワークアクセスは、YaSTによって設定できます。手動による環境設定も可能です。この章では、基本的メカニズムと関連のネットワーク設定ファイルのみを解説します。

Linuxおよび他のUnix系オペレーティングシステムは、TCP/IPプロトコルを使用します。これは1つのネットワークプロトコルではなく、さまざまなサービスを提供する複数のネットワークプロトコルのファミリです。TCP/IPを使用して2台のコンピュータ間でデータをやり取りするために、表 17-1に示した各プロトコルが提供されています。TCP/IPによって結合された世界規模のネットワークをインターネットと呼びます。

RFCは、Request for Commentsの略です。RFCは、さまざまなインターネットプロトコルとそれをオペレーティングシステムとそのアプリケーションに実装する手順を定めています。RFC文書ではインターネットプロトコルのセットアップについて説明しています。プロトコルについての知識を広めるには、その種類にかかわらず、適切なRFC文書を参照してください。これらは、http://www.ietf.org/rfc.htmlから入手できます。

表 17-1 TCP/IPプロトコルファミリーを構成する主要なプロトコル

プロトコル

説明

TCP

TCP(Transmission Control Protocol): 接続指向型の安全なプロトコルです。転送データは、まず、アプリケーションによってデータストリームとして送信され、オペレーティングシステム.によって適切なフォーマットに変換されます。データは、送信当初のデータストリーム形式で、宛先ホストのアプリケーションに着信します。TCPは、転送中にデータが失われていないか、データの順序に狂いがないかを判別します。データの順序が意味を持つ場合は常にTCP/IPが実装されます。

UDP

UDP(User Datagram Protocol): コネクションレスで安全でないプロトコルです。転送されるデータは、アプリケーションで生成されたパケットの形で送信されます。データが受信側に到着する順序は保証されず、データの損失の可能性があります。UDPはレコード指向のアプリケーションに適しています。TCPよりも遅延時間が小さいことが特徴です。

ICMP

ICMP (Internet Control Message Protocol):基本的にはエンドユーザ向けのプロトコルではありませんが、エラーレポートを発行し、TCP/IPデータ転送にかかわるマシンの動作を制御できる特別な制御プロトコルです。またICMPには特別なエコーモードがあります。エコーモードは、pingで使用されています。

IGMP

IGMP (Internet Group Management Protocol):このプロトコルは、IPマルチキャストを実装した場合のコンピュータの動作を制御します。

に示したように、データのやり取りはさまざまなレイヤで実行されます。図 17-1実際のネットワークレイヤは、IP (インターネットプロトコル)によって実現される確実性のないデータ転送です。IPの上で動作するTCP (転送制御プロトコル)によって、ある程度の確実性のあるデータ転送が保証されます。IPレイヤの下層には、イーサネットなどのハードウェア依存プロトコルがあります。

図 17-1 TCP/IPの簡易レイヤモデル

図では、各レイヤに対応する例を1つまたは2つ示しています。レイヤは抽象化レベルに従って並べられています。最下位レイヤは最もハードウェアに近い部分です。一方、最上位レイヤは、ハードウェアがまったく見えないほぼ完全な抽象化になります。各レイヤにはそれぞれの固有の機能があります。各レイヤ固有の機能は、上記の主要プロトコルの説明を読めば大体わかります。データリンクレイヤと物理レイヤは、使用される物理ネットワーク (たとえばイーサネット) を表します。

ほとんどすべてのハードウェアプロトコルは、パケット単位で動作します。転送されるデータは、一度にすべて送信できないので、パケットに分割されます。TCP/IPパケットの最大サイズは約64KBです。しかし、パケットサイズは通常、64KBよりもかなり小さな値になります。これは、ネットワークハードウェアでサポートされているパケットサイズに制限があるからです。イーサネットの最大パケットサイズは、約1500バイトです。イーサネット上に送出されるTCP/IPパケットは、このサイズに制限されます。転送するデータ量が大きくなると、それだけ多くのパケットがオペレーティングシステムによって送信されます。

すべてのレイヤがそれぞれの機能を果たすためには、各レイヤに対応する情報を各データパケットに追加する必要があります。この情報はパケットのヘッダとして追加されます。各レイヤでは、プロトコルヘッダと呼ばれる小さなデータブロックが、作成されたパケットに付加されます。図 17-2に、イーサネットケーブル上に送出されるTCP/IPデータパケットの例を示します。誤り検出のためのチェックサムは、パケットの先頭ではなく最後に付加されます。これによりネットワークハードウェアの処理が簡素化されます。

図 17-2 TCP/IPイーサネットパケット

アプリケーションがデータをネットワーク経由で送信すると、データは各レイヤを通過します。 これらのレイヤは、物理レイヤを除き、すべてLinuxカーネルに実装されています。各レイヤは、隣接する下位レイヤに渡せるようにデータを処理します。最下位レイヤは、最終的にデータを送信する責任を負います。データを受信したときには、この手順全体が逆の順序で実行されます。重なり合ったたまねぎの皮のように、各レイヤで伝送データからプロトコルヘッダが除去されていきます。最後に、トランスポートレイヤが、着信側のアプリケーションがデータを利用できるように処理します。この方法では、1つのレイヤが直接やり取りを行うのは隣接する上下のレイヤのみです。データが伝送される物理的なネットワークは、 100MBit/sのFDDIかもしれませんし、 56Kbit/sのモデム回線かもしれませんが、アプリケーションがその違いを意識することはありません。同様に、物理ネットワークは、パケットの形式さえ正しければよく、伝送されるデータの種類を意識することはありません。