Identity Manager実装のプロジェクト管理面の計画

この節では、Identity Managerの実装における計画およびプロジェクト管理上の高レベルな側面の概要について説明します(技術面については、Identity Manager実装の技術面の計画を参照してください)。

この計画用ドキュメントには、通常はIdentity Managerプロジェクトの開始から完全な運用環境への展開までに行われるアクティビティのタイプが記載されています。識別情報管理戦略を実装するには、現在の環境におけるニーズと利害関係者を特定し、ソリューションを設計し、利害関係者の参画を得て、ソリューションをテストして導入する必要があります。この節は、このプロセスに関する十分な情報を読者に提供して、Identity Managerを使用することで最大限の利点が得られるようにすることを目的としています。

ソリューション展開の各フェーズを支援するために、Identity Managerのエキスパートを参加させることを強くお勧めします。パートナーシップのオプションの詳細については、Novell(R) NsureTM ソリューションパートナーのWebサイトを参照してください。Novell Educationでは、Identity Managerの実装に対応したコースも提供しています。

この節はすべての情報を網羅するものではありません。また、考えられる設定すべてを取り上げているわけではなく、その実行に限定したものでもありません。環境はそれぞれ異なるため、使用するアクティビティのタイプに応じた柔軟性が求められます。


Novell Identity Managerの展開

Identity Managerの展開時のベストプラクティスとしてお勧めするアクティビティはいくつかあります。


検出

Identity Managerの実装は検出プロセスから開始でき、この検出プロセスによって次のことが可能になります。

  • 識別情報を管理する主な目的を識別する
  • 対処するビジネス上の問題を定義または明確化する
  • 未解決の問題に対処するために必要なイニシアティブを決定する
  • これらのイニシアティブの1つ以上を遂行するために何が必要かを決定する
  • 高レベルな戦略または「ソリューションロードマップ」と、承認された実行パスを策定する

検出プロセスにより、すべての利害関係者が問題とソリューションに関して共通の理解を得ることができます。分析フェーズでは、利害関係者がディレクトリ、Novell eDirectoryTM、Novell Nsure Identity Manager、およびXML統合の基本知識を持っている必要があります。検出プロセスは、この分析フェーズに対する優れた手引きとなります。

  • すべての利害関係者が基礎的なレベルの理解を得ることができる
  • 利害関係者からビジネスおよびシステムに関する重要な情報を取得できる
  • ソリューションロードマップの作成が可能になる

検出により、次のような直後の手順も特定されます。

  • 要件および設計フェーズに備えて計画アクティビティを特定する
  • 利害関係者に対する追加の教育を定義する

主な成果物
  • ビジネスおよび技術上の主な利害関係者との構造化インタビュー
  • ビジネスおよび技術上の課題に関する高レベルな概要レポート
  • 次の手順についての推奨事項
  • 検出の成果の概要を説明したエグゼクティブプレゼンテーション


要件と設計の分析

この分析フェーズでは、プロジェクトの技術的側面とビジネス的側面の両方を詳細に捉え、データモデルと高レベルなIdentity Managerアーキテクチャ設計を生成します。このアクティビティは、ソリューションを実装する最初の重要な手順です。

設計の焦点は特に識別情報管理に置きますが、ファイルや印刷など、従来はリソース管理ディレクトリに関連付けられていたさまざまな要素に焦点を置くこともできます。次に、評価できる項目のサンプルを示します。

  • 使用するシステムソフトウェアのバージョンは何か?
  • ディレクトリの設計は適切か?
  • すべてのシステムのデータの品質は適切か? (データが使用できる品質ではない場合、ビジネスポリシーが希望どおりに実装されない場合があります)

要件の分析が完了したら、実装の範囲とプロジェクト計画を設定し、前提条件アクティビティが必要かどうかを判断できます。大きなミスを防ぐために、情報の収集と要件の文書化をできるだけ徹底的に行ってください。

要件評価中に次のタスクを完了できます。


ビジネス要件の定義

組織のビジネスプロセスと、これらのビジネスプロセスを定義する要件を収集します。

たとえば、従業員の退職に関するビジネス要件は、従業員のネットワークと電子メールアクセスを従業員の退職当日に削除するというものです。

次のタスクはビジネス要件の定義に役立ちます。

  • プロセスフロー、プロセストリガ、およびデータマッピングの関係を確立する。

    たとえば、あるプロセスで何かが発生した場合、そのプロセスが原因で何が発生しますか? その他のどのようなプロセスがトリガされますか?

  • アプリケーション間のデータフローをマップする。
  • 2/25/2002から25 Feb 2002への変換など、ある形式から別の形式にデータを変換するために必要な作業を特定する。
  • 存在するデータ従属関係を文書化する。

    特定の値を変更する場合、その値に対する従属関係があるかどうかを理解することが重要です。特定のプロセスを変更する場合は、そのプロセスに対する従属関係があるかどうかを理解することが重要です。

    たとえば、人事システムで「臨時採用」という従業員ステータス値を選択した場合、IT部門では、制限付き権利を持ち特定の時間帯にネットワークにアクセスできるユーザオブジェクトをeDirectory内に作成しなければならないことがあります。

  • 優先度をリストアップする。

    すべての関係者のすべての要件、要求、および希望をすぐに満たすことができるとは限りません。プロビジョニングシステムの設計と展開の優先度は、ロードマップの計画に役立ちます。

    展開を複数のフェーズに分割すると、展開の一部分は前倒しで実装し、その他の部分は後で実装することもできるため、効果的な場合があります。

  • 前提条件を定義する。

    展開の特定フェーズの実装に必要な前提条件を文書化する必要があります。

  • 認証されたデータソースを特定する。

    システム管理者やマネージャが自身に属すると考えている情報を早い段階で把握しておくと、すべての関係者から参画を得て維持するのに役立ちます。

    たとえば、アカウント管理者には、特定のファイルとディレクトリに対する権利を従業員に付与する権利が必要となります。これは、アカウントシステムにローカルなトラスティ割り当てを実装することによって対応できます。


ビジネスプロセスの分析

多くの場合、ビジネスプロセスの分析は、マネージャ、管理者、従業員など、アプリケーションやシステムを実際に使用する個々の人物と話し合うことから始まります。対処するべき主な課題は次のとおりです。

  • データが生成されるのはどこか?
  • そのデータが送られるのはどこか?
  • データに対する責任者はだれか?
  • データを所有するビジネス機能の所有権を持っているのはだれか?
  • データを変更する場合の連絡先はだれか?
  • データの変更によってどのような影響があるか?
  • データ処理(収集または編集、あるいはその両方)についてどのような作業手順があるか?
  • どのような種類の操作を行うか?
  • データの品質と整合性を確保するためにどのような方法を使用しているか?
  • システムはどこにあるか(どの部署のどのサーバ)?
  • 自動処理に適さないプロセスはどのようなものか?

たとえば、人事部のPeopleSoftシステムの管理者には次のような質問を尋ねることができます。

  • PeopleSoftデータベースにはどのようなデータが格納されているか?
  • 従業員のアカウントの各種パネルに何が表示されるか?
  • プロビジョニングシステムに反映する必要のあるアクションは何か(追加、変更、削除など)?
  • これらのうち、どれが必須で、どれが必須でないか?
  • PeopleSoftで実行されるアクションに基づいてトリガする必要のあるアクションは何か?
  • どの操作/イベント/アクションを無視する必要があるか?

重要な人々へのインタビューによって、組織のどの部門であればプロセスの全体像を明確化できるかがわかります。


企業のデータモデルの設計

ビジネスプロセスを定義したら、現在のビジネスプロセスを反映したデータモデルの設計を開始できます。

このモデルには、データがどこで生成され、どこに送られるか、およびデータを移動できない場所を示す必要があります。また、重要なイベントがデータフローにどのように影響するかを考慮する必要もあります。

提案されたビジネスプロセスと、そのプロセスに自動プロビジョニングを実装することの利点を示した図を作成することもできます。

このモデルの開発は次のような質問に答えることから始めます。

  • どのような種類のオブジェクト(ユーザやグループなど)を移動するか?
  • どのイベントが重要か?
  • どの属性を同期化する必要があるか?
  • 管理するさまざまなオブジェクトのタイプについて、ビジネス全体でどのようなデータを保存するか?
  • 同期化は一方向か、それとも双方向か?
  • どのシステムがどの属性の認証されたソースか?

システム間のさまざまな値の相関関係を考慮することも重要です。

たとえば、PeopleSoftの「従業員ステータス」フィールドには、「従業員」、「契約社員」、および「研修社員」の3つの設定値があります。しかし、Active Directoryシステムには、「正社員」と「アルバイト」の2つの値しかありません。この状況では、PeopleSoftの「契約」ステータスと、Active Directoryの「正社員」と「アルバイト」の値の関係を決定する必要があります。

この作業の焦点は、各ディレクトリシステムとこれらの相関関係、およびどのオブジェクトと属性をシステム間で同期化する必要があるかを理解することです。


主な成果物

  • すべてのシステム、承認されたデータソース、イベント、情報フロー、およびデータ形式の標準を示すデータモデル
  • ソリューションに適したIdentity Managerアーキテクチャ
  • 追加のシステム接続要件の詳細
  • データ検証とレコード一致のための戦略
  • Identity Managerインフラストラクチャをサポートするディレクトリ設計


従属関係

  • すべての外部システムに精通したスタッフ(人事データベース管理者、ネットワークおよびメッセージングシステム管理者)
  • システムスキーマとサンプルデータの提供
  • 分析および設計フェーズからのデータモデル
  • 組織図、WAN、サーバインフラストラクチャなどの基本情報の提供


POC (Proof of Concept)

このアクティビティの成果とは、会社のビジネスポリシーとデータフローが反映された研究室環境にサンプル実装を実現することです。これは、要件分析と設計の際に作成されるデータモデルの設計に基づいており、運用試験前の最終手順です。

注:  多くの場合、この手順は、経営陣から最終的な実装作業のためのサポートと資金を得るために有益です。


主な成果物

  • すべてのシステム接続が動作可能な状態におけるIdentity Managerの有効なPOC


従属関係

  • ハードウェアプラットフォーム
  • 必要なソフトウェア
  • 必要な接続を識別する分析および設計のフェーズ
  • テスト目的での他のシステムの利用とアクセス
  • 分析および設計のフェーズからのデータモデル


データの検証と準備

運用システムのデータは、品質と整合性にばらつきがある可能性があるため、システムを同期化すると不整合を生じることがあります。このフェーズは、Nsure Resourcesの実装チームと、統合されるシステム内のデータを「所有」または管理する業務単位またはグループを明確に分離するポイントになります。場合によっては、関連付けられているリスクとコストの要因は、プロビジョニングプロジェクトには属さないことがあります。


主な成果物

  • eDirectoryへのロードに適した運用データセット(分析および設計のアクティビティで識別)。これには、ロード方法(バルクロードか、コネクタ経由)も含まれます。検証されるデータの要件、または他の方法でフォーマットされているデータの要件も識別されます。


従属関係

  • 分析および設計のフェーズからのデータモデル(提案されたレコード一致とデータ形式の戦略)
  • 運用データセットへのアクセス


運用試験

このアクティビティの目的は、運用環境への移行を開始することです。このフェーズ中に、追加のカスタマイズが必要になることがあります。この限定的な導入では、前のアクティビティが目的どおりの成果を達成しているかどうかを確認し、運用投入のための同意を得ることができます。

注:  このフェーズは、ソリューションの受け入れ基準、または本格運用までに必要なマイルストーン、あるいはその両方になる場合があります。


主な成果物

  • データモデルおよびプロセスに求める結果に関する実際のPOCと検証を提供する試験ソリューション


従属関係

  • それ以前のすべてのアクティビティ(分析と設計、Identity Managerテクノロジプラットフォーム)。


運用投入計画

このフェーズでは運用展開を計画します。計画では次の作業を行う必要があります。

  • サーバプラットフォーム、ソフトウェアの改定、およびサービスパックを確認する
  • 全般的な環境を確認する
  • eDirectoryの導入、および異なるツリーの共存を確認する
  • パーティションと複製の戦略を確認する
  • Identity Managerの実装を確認する
  • レガシープロセスのカットオーバを計画する
  • ロールバックコンティンジェンシ戦略を計画する


主な成果物

  • 運用投入計画
  • レガシープロセスのカットオーバ計画
  • ロールバックコンティンジェンシ計画


従属関係

  • 以前のすべてのアクティビティ


運用環境への展開

このフェーズでは、運用環境の実際のデータすべてが対象になるように試験ソリューションを拡張します。一般的には、運用試験が技術上およびビジネス上の要件をすべて満たしていることに同意が得られた後で実施されます。


主な成果物

  • 移行準備の整った運用ソリューション


従属関係

  • 以前のすべてのアクティビティ